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著者対談(2)『「最高の人材」が入社する 採用の絶対ルール』(ナツメ社)

2019年3月に『「最高の人材」が入社する 採用の絶対ルール』(ナツメ社)が出版されました。同書の出版を記念し、共著者の釘崎清秀氏(株式会社パフ 代表取締役社長)と伊達洋駆氏(株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役)による対談を行いました。今回は対談の第2回となります(第1回はこちら)。

人の感情が誤った常識を保存

伊達 採用の世界で慣行となっているものとして、「志望動機」の確認もありますね。『採用の絶対ルール』でも書きましたが、「志望動機を上手く語れる応募者」を高く評価する企業は多い。志望動機を上手に表現してくれるとシンプルに嬉しいんですよね。それで高い評価を与えてしまうわけです。

釘崎 逆に志望動機を語れないと、「本当にうちへ来たいと思っているのか?」とマイナス評価をしがちなんですよね。

伊達 採用の世界における常識を一つ一つ吟味すると、それらの背後に感情の問題が潜んでいることに気づきます。採用に関わる人の感情です。志望動機が続く理由も「嬉しさ」という感情が影響していますし、他にも、候補者群を集めないと採用人数を充足できるか「不安」だから、「候補者群はたくさん集めた方が良い」という誤った常識が信じられています。

釘崎 そうですね。もう一つ、誤った常識が保存される理由がありそうです。「自分が(採用のやり方を)変える当事者になりたくない」ということです。

伊達 波風を立てたくないと。

釘崎 だから前年踏襲になってしまう。変えようとすると、その理由を含め、上を説得しなければならなくなりますし。去年もそこそこ上手くいっていたんだから「ま、変えなくてもいいか」と。

自社なりの方法を考える契機に

伊達 そもそも現在の採用のどこを変えれば良いかを考えること自体が難しい、という声も耳にします。そこで重要になるのは「理想を描く」ことでしょう。「理想を描く」は採用力の構成要素の一つですね。採用の理想的なあり方を自分なりに考えてみる。そうすると、そのあり方から乖離する実践に「違和感」を覚えることができます。

釘崎 「本来、採用ってこうあるべきだ」と思っていないと、違和感が出てこなくて、結果的に、変えようというエネルギーも湧いてきませんね。

伊達 その文脈で考えると、『採用の絶対ルール』は新たな常識を提案しつつも、あくまで採用に関する基礎知識を提供するものです。採用に関わる人が理想を描いていれば、「自分は、この点は『採用の絶対ルール』と違う考えを持っている」となるかもしれません。このことは健全だと思います。少し応用的な水準ではありますが。

釘崎 私もこの本で主張していることが、ある人の理想像とズレていたとしても良いと思ってます。実際、そういう読者も身近にいます。むしろ、そうしたズレを、自分の理想像を更に掘り下げるきっかけにしてもらいたいですね。

伊達 この本では主張だけではなく、その主張を行う根拠も丁寧に書いています。そのため、「この箇所が自分の考えとは違うんだ」と論理的に理解しやすいかもしれません。

釘崎 例えば、『採用の絶対ルール』において「エントリーシートは不要では?」という問いを投げかけていますが、全ての会社にとってエントリーシートが絶対悪かと聞かれると、勿論そこまでは言い切れません。

伊達 そうですね。「絶対ルール」という言葉が含まれた書名ではありますが、全ての会社に普遍的に適用できる知識を提供するというより、この本で提示した知識を媒介して、自社なりの採用のあり方を模索してほしいなと思います。

採用の成功とは何か

釘崎 先ほど「理想を描く」ことに関する話が出ましたが、『採用の絶対ルール』の内容を素材にして、「自社の採用が上手くいっている状態」について各社で改めて考えて欲しいと思います。

伊達 採用の「成功」を如何に定義するのかという問題ですね。

釘崎 そう。良い大学の人をとれたら成功か、大学は関係ないのか、早期に戦力化する人がとれたら成功か、採用した人が長期的に会社を変革したら成功か。成功の定義について、社内で議論することが大事だと思います。

伊達 会社に入ってから辞めるまでのフロー、曽和さんの『人事と採用のセオリー』(2018年10月に上梓された曽和利光氏の著書)で言うところの「人材フロー」について検討し、その上で、採用で何をどこまで担う必要があるのかを考えてみるのも一つの手ですね。

釘崎 例えば、「平均在籍期間10年を切る会社」における採用の成功と、「定年までほとんどの社員が勤め上げる会社」における採用の成功は異なってきます。どちらが正しいということもありません。

応募者と伴走する採用担当者

伊達 採用の「成功」を定める際にも、あるいは、定めた後も、応募者の心理・行動を考慮する観点をしっかり持つ必要があります。『採用の絶対ルール』においては、「応募者と伴走する役割を採用担当者に担っていただきたい」と書いています。応募者のキャリア選択をより良いものにすべく支援するような役割ですね。

釘崎 社員全員が求職者サイドに立つのは現実的に難しいかもしれませんが、伴走者が一人でもいれば、応募者の企業選びは充実したものになりますね。

伊達 企業にとって採用は大事です。しかし応募者にとっても、企業選びは、自身のキャリアに関する重大な意思決定の機会ですもんね。

釘崎 応募者に寄り添っていれば、例えば、その人の考え方と自社の考え方がどうも交わるところがないなと思ったら、「あなたには、もっとこういう会社やこういう仕事があると思うけど、どう思いますか?」といったアプローチもあるでしょうね。

伊達 あると思います。

釘崎 「私の知り合いの会社でこういう会社があるんだけど、一回、受けてみてはどうでしょう?」みたいな話もできるでしょうし。

伊達 応募者の情報をどう取り扱うかという課題はあるかもしれませんが、採用担当者同士のネットワークを使って、「こういう人がうちに受けに来た。うちには合ってないけど、御社には合っている気がする」といった紹介がなされると良いですね。

営業等にも展開し得る採用活動

伊達 応募者のキャリア選択をより良いものにするという観点は、『採用の絶対ルール』の第4章で触れています。各社がそのような視座を持って採用を進めれば、社会的なマッチングの精度が上がると思うんですよね。

釘崎 世の中の会社がみんなそういうふうな考えになれば、人材の最適配置に繋がっていくんですけど。そういう意味では、入社後についても、仮に他社の方がマッチしていると思われる場合は、喜んで送り出す必要がありますね。例えば、新卒でうちに入社しながらも、現在は、取引先で活躍している元社員が何人もいますよ。

伊達 採用活動において応募者一人ひとりと向き合って、その人が適切なキャリア選択を行えるように手伝えば、その人と関係構築できます。ゆくゆく一緒に仕事できたり、場合によっては後々に転職してきたりすることもあるでしょう。採用は「人材」を介して、営業やマーケティングにも展開し得る活動ですね。

結果的に成果を上げる考え方

釘崎 「個」に根差した採用を行っているか否か。その積み重ねが大きな差になっていくと思います。一人ひとりを尊重した採用をする会社は、応募者からリスペクトされますし、そのことが持つ可能性に気付かないといけないですよね。

伊達 先進的な企業は、個と接する時間を確保すべく、それ以外の時間を効率化し始めています。例えば、一人ひとりを考慮するとなると、大規模な候補者群を集める採用には限界があるので、良質な候補者群を集めるための工夫を凝らしたり。

釘崎 うちのお客さんで200人以上採用する会社があります。なんと、その会社は全国の大学に足を運んでいるんですよね。「たとえ一人でもその大学に候補者となる人がいるのであれば無駄にはならない」という発想です。そういう情熱は伝わるんですね、学生にも。そうすると、その会社の説明会に行ってみようと思ったり、もっとその会社のことを真剣に調べてみようという気持ちになったりするものです。

伊達 その会社の採用は上手くいっていますか。

釘崎 上手くいっているんですよね。しかも、丁寧で良い採用をやっているんで、後輩に伝わっていくんです。「この会社いいぞ」と。更にすごいのは、その会社を残念ながら落ちた人が、「この会社、俺は落ちたけど、良い会社だからおまえも受けてみろよ」と、応募者同士でリファラルし合っているんです。個にとって嬉しい採用を進めることは一見、不合理に見えるかもしれないけれど、結果的に、その企業に対して効果を生み出します。

(「著者対談(3)」へ続く)

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